IRSF/SIRIUS が目指すサイエンスの紹介

IRSF/SIRIUS 開発の動機

IRSF1.4m望遠鏡と、近赤外3色同時撮像カメラ SIRIUSは、 特定領域研究「マゼラン星雲大研究」プロジェクトの一環として開発されました。 IRSF/SIRIUSは、大小マゼラン雲の近赤外広域サーベイ観測をおこなうための専用望遠鏡・装置です。 2000年12月よりマゼラン雲の観測を開始し、現在も観測を続けています。
また、マゼラン雲以外にも、私たちの銀河系の中心・「銀河中心」や 銀河系内の星形成領域、遠方の銀河などの観測をおこなっています。 このページでは、それらの観測結果を紹介したいと思います。

大小マゼラン雲

マゼラン雲とは

大小マゼラン雲は私たちの銀河系の最も近くにある銀河の一つです (大マゼラン:50キロパーセク≒16万光年、小マゼラン雲:60キロパーセク≒20万光年)。 このため、マゼラン雲にある星は、遠方の銀河と違って、 一つ一つの星を分解して観測することができます。

サーベイ領域(大マゼラン雲(左)と小マゼラン雲・マゼランブリッジ(右))

また、マゼラン雲では活発な大質量星(>特に20太陽質量)の形成が起きています。 特に有名なのが大マゼラン雲にあるタランチュラ星雲(天文学会の通称は「30Dor」)です。 ここでは約100太陽質量という、これまでに見つかっている最も重い星が 数十個のオーダーで見つかっています。 このような激しい大規模星形成は私たちの銀河では見つかっていません。 (ちなみに、「カミオカンデ」で検出されたニュートリノを発生させた超新星爆発は、 この「30Dor」領域で起きたものです。)
さらに、マゼラン雲はその化学組成が私たちの銀河系とは異なっていることが知られています。 全物質に対する水素・ヘリウム以外の元素の割合を天文学の世界では「金属量」と呼びますが、 その金属量が私たちの銀河と比べて、大マゼラン雲で約4分の1、 小マゼラン雲で約10分の1しかありません。
この他にも、非常に高いガス対ダスト比、今も続く球状星団の誕生など、 マゼラン雲は極めて興味深い特徴を持った銀河です。 私たちはこのようなマゼラン雲の近赤外広域サーベイ観測をおこなっています。

何が分かるのか?

太陽のような星(恒星)は分子雲と呼ばれるガスの中で生まれますが、 水素の核融合反応によって安定的に燃え始める前の段階では、 燃えているとき(このときの恒星を主系列星という)よりも低温で、 しかも分子雲にあるダストの中に埋もれています。 (星の進化に関する解説は、 こちら(宇宙スペクトル博物館のページ)をどうぞ。 また、この分子雲の研究をしているのが隣の研究室のA研です。)
近赤外線は可視光に比べてダストに吸収されにくく、 また低温(1000〜3000度)の天体は近赤外でもっとも明るく光ります。 つまり、近赤外線による観測はこのような若い星を見つけるのにたいへん適しているのです。 私たちはこのマゼラン雲近赤外広域サーベイによって、 マゼラン雲にあるこのような若い星を大量に見つけだすことができると考えています。

また、メインのサーベイ観測と平行して、大小マゼラン雲の中心領域について、 変光星サーベイ観測をおこなっています。 この観測によってマゼラン雲にある大量の変光星を発見しています。 これらの変光星は恒星が水素の核融合反応を終えた後のいわば古い星です。 これらの変光星の明るさと変光周期の関係を調べることによって、 星の死んでいく様子を明らかにすることができます。 このような古い星もまた、低温でダストに埋もれているので、 近赤外線による観測がたいへん適しているのです。

銀河中心領域

私たちの銀河系の中心は、私たちから約3万光年(≒8.5kpc)の距離にあると言われていますが、 現在も多くの謎を持った魅力的な領域です。 また、私たちの銀河は(棒)渦巻き銀河と呼ばれる銀河で、 ほとんどのガスや若い星は銀河面と呼ばれる一つの面の上に乗っていて、 その面の上で(棒や)渦巻きの構造を形作っています。 私たちの太陽系もやはりこの銀河面上にあります。 したがって、私たちが銀河中心の方向を見たとき、 大量のガスや星が私たちと銀河中心の間に存在することになります。 ガスの一部は分子雲を形成し、分子雲はダストを含んでいるので、 銀河中心方向を可視光で見ると、星からの光はダストによって散乱された結果、 銀河中心は真っ暗に見えます。 しかし、近赤外線はダストによる影響を受けにくいので、 銀河中心方向にある星を見ることができます。

私たちは銀河中心方向の近赤外サーベイ観測をおこない、 銀河中心の構造や星団探しなどをおこなっています。 また、ダストによる吸収の波長依存性を調べることによって、 ダストの性質を明らかにすることも狙っています。

そのほかの領域

そのほかにも、南半球からしか見えないような星形成領域の観測や 銀河面背後の系外銀河の探索をおこなっています。 これらについても、いずれ詳しく紹介する予定です。

天体画像ギャラリー

IRSF/SIRIUSのページでは、以下のページで多くの天体のイメージを紹介しています。 天体の簡単な紹介も載っていますので、どうかご覧ください。
http://www.z.phys.nagoya-u.ac.jp/~sirius/gallery/perl/index.html


おまけ
天文についてもっと知りたい方は 宇宙スペクトル博物館のCD-ROMが大変充実しています。


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