近赤外線で見た銀河系中心部

 夏の夜空を横切る天の川は、円盤状の星の集まりである私たちの銀河系を内部から眺めた姿だ。銀河系の中心は天の川が最も太くなるいて座の方向にあるが、可視光写真では中心らしいものは特に見えない。この方向には塵を含んだ星間物質(暗黒星雲)が大量にあり、背後の光を吸収してさえぎっているからである。
 この方向を近赤外線で観測すると、銀河系の中心が見えてくる。近赤外線は可視光よりも波長が長く、塵によって吸収されにくい性質がある。銀河系中心からの可視光が吸収で1兆分の1にまで減光されるのに対し、近赤外線は数10分の1ほどにしかならないので、中心まで見とおすことができる。
 右の近赤外線画像の中央にあるオレンジ色の部分が銀河系中心。地球からの距離は約28,000光年。近赤外線の中でも波長の短い光(青色に相当)が最も吸収されやすいため、吸収の多い中心部は赤っぽく、周辺ほど青く見える。
銀河系の近赤外線画像

銀河系の可視光写真

 今回の観測では、銀河系中心領域を、満月が縦に4個・横に10個ならぶ広い範囲(左写真の赤枠部分)にわたって近赤外線で撮影した。これほどの広い範囲をこれほどの解像度と感度で「近赤外カラー撮影」したのは世界で初めてである。この画像から(1)銀河系の中心部には星がどのように分布しているのか、(2)暗黒星雲が可視光線から赤外線にかけてどのように光を吸収するのか、を調べることができる。
 銀河系の中心部にはさまざまな星が密集している。通常の星は質量によって色も明るさも違う。しかし、星中心部の水素を使いつくしヘリウムを核融合反応させて輝く段階になると、多くの星はほぼ同じ色と明るさになり、「標準光源」として利用できる。つまり、これらの星の見かけの色・明るさと本来の色・明るさを比べることで、その星までの距離と、その手前にある暗黒星雲による吸収の性質や量を知ることができるわけである。
 銀河中心部での星の分布からは、銀河系が棒渦巻銀河であるという証拠がつかめる可能性がある。暗黒星雲の性質を知ることは、星の形成現場など暗黒星雲に隠された他のさまざまな領域の研究に役立つ。
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